2023.5.7
独狼の血
原作は柚月裕子著「孤狼の血」。第42回日本アカデミー賞では、優秀作品賞、優秀監督賞、優秀主演男優賞など最多12部門を受賞。
2021年8月には続編「孤狼の血 LEVEL 2」が公開。
独狼の血の映画情報
原題 | |||
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制作年 | 2015年 | 制作国 | 日本 |
上映時間 | 126分 | ジャンル | クライムドラマ |
映倫 | R15+ | ||
オフィシャルWeb | https://www.korou.jp/1/ |
監督 | 白石 和彌 |
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キャスト | 役所広司 |
以下「独狼の血」の感想・評価・レビューの内容は、ネタバレを含む場合があります。
「独狼の血」をまだご覧になられていない方は、十分にご注意ください。
独狼の血のあらすじ・ストーリー
昭和63年。暴力団対策法成立直前の広島・呉原―。そこは、未だ暴力団組織が割拠し、新たに進出してきた広島の巨大組織・五十子会系の「加古村組」と地場の暴力団「尾谷組」との抗争の火種が燻り始めていた。そんな中、「加古村組」関連企業の金融会社社員が失踪する。失踪を殺人事件と見たマル暴のベテラン刑事・大上と新人刑事・日岡は事件解決の為に奔走するが、やくざの抗争が正義も愛も金も、すべてを呑み込んでいく……。警察組織の目論み、大上自身に向けられた黒い疑惑、様々な欲望をもむき出しにして、暴力団と警察を巻き込んだ血で血を洗う報復合戦が起ころうとしていた……。
引用元https://www.korou.jp/1/introduction/
独狼の血をみた記録
広島は呉原、金融会社の社員が失踪。暴力団との関わりがある金融会社で、呉原東署のマル暴刑事である大上が失踪事件を捜査をはじめた。そこへ新米刑事の日岡が大上のバディとして配属される。大上についていくばかりの日岡は、大上の横暴な捜査を目の当たりにする。恐喝、放火、暴行、拷問など、捜査とは一線を超えた大上の行いに日岡は日々不信さを増していった。
呉原では尾谷組と加古村組の抗争がはじまろうとしていたが、同時に失踪事件に関わっているのが加古村組のようで、一般人に手を出した加古村組を潰そうと大上の捜査も進んでいくが–––。
刑事という職についた瞬間は、まさに松坂桃李演じる日岡のような青年だろうに、なにがどうなって役所工事演じる大上のような、まるでヤクザのような刑事になっていくのかふしぎでならなかったが、青年がヤクザから市民を守っていくために努める究極形態なのだとわかった。この映画は、いわば大上と青年日岡が“刑事”になるまでを描いていたようにおもう。しかし日岡は大上のような刑事にならない、ということも同時に決意していたように捉えた。どちらか一方の肩を持つこともせず、ヤクザをコマにすることもせず、己の正義を貫くことを選択したということだろう。
ところで、フィクションにケチつけるつもりはないけど、実際にここまでヤクザな刑事がいるのだろうか。多くのひとがふしぎにおもっていることだとおもうのだけど、本当にここまで癒着があって、こんなに乱暴なのか。いつかみた「日本で一番悪い奴ら」(2016)(しかも白石和彌監督)は実際にあったことに基づいているとなると、ヤクザな刑事がいてもふしぎではないのだけど、やっぱり信じがたい光景。昭和63年という時代背景は正しいのかなぁ、正しいに決まっているのだろうけど、ついこの前なのよ昭和63年は。たった35年前、広島の街ではときに銃声が聞こえてたの?ほんとに?超やばくない?極妻よりもリアリティがあるので、ほんとにこわくて震えます。
とうぜんエンタメとしてヤクザの世界をみておもしろがっているだけなのだけど、ヤクザ連中の情熱や負けん気を、カタギの世界で発揮できないのがもったいなくてしょうがない。手っ取り早いのが暴力や盗みなわけで、正しいことをしながらちまちま生活するなら、悪いことで稼いで生活していこう、という思考かとはおもうが、後始末や人間関係などカタギの仕事よりはるかにめんどうが多そうなのに。まして、幹部になるような頭のよさそうな男もいるわけで、なおさらきちんとした事業をしたらうまくいきそうだ。つまり成功している実業家はヤクザのような人間も多いのかもしれない、ということかもしれない、かもしれない。
ここ最近、強盗などの事件を多く耳にするのだけど、経済が弱くなると犯罪も増えていくわけだ。この数年、犯罪が増えるだろうなと仲間内で予見していたとおりの日常になってきている。日本という国はほぼ全員が道徳や倫理を学ぶ教育が行き届いているはずで、他国より犯罪件数を抑えられているのだと思っていたのだけど、学校教育で学ぶ道徳や倫理を無視しなければならない貧困と、簡単に悪の道に呼び込めるネットワークのせいで、おだやかな日本の国柄が変わりつつある。他国より犯罪件数を抑えられていた点も、外国人の流入が増えれば・・・と考えるのは自然だろうし。(外国人流入はあまり関係ないかもしれないけど)ヤクザの世界も貧困に喘いでいる証拠だ。時代は繰り返すというが、治安は悪くなっていくだろう。汚職もまた増えていきそうだし正義が危ぶまれる。ちょっと脱線気味になったけれど、とにかくあたしは日本が壊れていくのが不安でしかたがないのと、不安なくせにその様子をただ眺めているだけのどうしようもない人間だなぁ、といちばんよくない中途半端な立場にいるということです。
この原作のタイトル「独狼の血」。字のごとく一匹狼だろうけれど、おなし読みで「狐狼」がある。こちらは「ずるくて害心ある者をたとえていう」そうなのだけど、まさに大上刑事のようだし、もちろん一匹狼であったし、タイトルがシャレているな〜とおもいました。
そして最後に、個人的なベストオブ役者が永川恭二役の中村倫也だったことも加えておこう。中村倫也はあまり知らないが、彼はすごいカメレオンなのではないか。なにかアニメ映画で声優もしていて、とっても上手だった記憶がある。相当器用な男にちがいない。上から物申してアレですが、評価するとしてかなり高得点です。あと薬局?の桃子もよかった。阿部純子という女優で、古風ななまえがまたいい!
なお、広島のことばはやっぱりむつかしくて、日本語字幕にとても助けられた。なに言っているかよくわからないひとは日本語字幕やってみて。相関図がわけわからなくなったらオフィシャルサイトで相関図も確認できます(2023年5月現在、続編のために下層へ移設したためか、サイトは壊れていて正常には閲覧できないのだけど)。ついでに、「独狼の血」というだけあって、それなりに血飛沫もグロテスクな描写もあるのだけど、この映画からは血生臭さをあまり感じません。話はリアリティーを感じるのだけど、画面から役者たちのヘアワックス等のいい香りがしてきそうな雰囲気があるのです、なぜでしょうか。